<3月15日(金) 成田:曇り ロンドン:晴れ>
出発前の数日はサークルの追い出しコンサートや大学院の入学手続きなどで忙しく、初めての海外旅行だというのに出発日を指折り数えてわくわくする暇もなかったのが少し寂しかったのだが、いよいよロンドンへ行くという3月15日の朝、成田空港第1ターミナルに着いてから何となく旅行らしい気分になってきた。ぱたぱたと音を立てて変わる出発案内の掲示板や、窓の外にはサテライトを中心に放射状に並ぶ飛行機、出国審査場に降りていくエスカレーターなど、昔のドラマなどの空港シーンで目にしたことのある風景が目の前に! などとひとりで感激していたのであった。
何もかもが初めてで期待と不安が交差する中、無事に出国審査もパスし、12:00発のヴァージン・アトランティック航空VS901便で一路ロンドンへ……といくはずだったのだが、飛行機の到着が35分も遅れ、しかも折り返し便だったため、当初は出発が5分遅れと言っていたものの、出発予定時刻になっても搭乗開始のアナウンスすらなく、情けないことに私と友人は待っているだけで早くも疲れてしまった。しかもお腹もすいている。結局1時間遅れで飛行機は無事離陸し、私と友人は何とか機内食にありつけたのであった。
私はよく知らなかったのだが、このヴァージン・アトランティック航空という会社は、接客態度やサービスの良さでは有名なところらしい。イギリスに本社のある航空会社であるにもかかわらず、機内食では洋食と和食(松花堂弁当)の選択が可能であり(しかも和食の方がおいしい)、たとえエコノミーであっても個人個人の座席の前には液晶テレビがつき、映画やゲームを楽しむことができるのである。私たちはそれにすっかり感激し、行きの飛行機の中では(帰りもそうだったが)ほとんどTVゲームに興じていた。
あと私が個人的に好きだったのが「空地図」というもの。英語では「スカイ・マップ」と言い、現在地や高度、外の気温などを逐一画面に出してくれるのである。それを見ながら機内のラジオ放送で音楽を聴くというのもなかなか楽しかった。おかげで12時間という長い飛行時間ではあったがほとんど退屈することなくロンドンはヒースロー空港へと着陸した。
ここでもまた初めてのことが待っていた。そう、入国審査と両替である。なにぶん日本語文化圏からでたことのない私、いくら英会話をやっていたことがあるとは言えそれは高校生までのことだし、果たして本当に私の英語が通じるのだろうか、怪しまれたりはしないだろうか、などと(今考えれば)いらぬ心配をしていた。入国審査は滞在日数と目的を聞かれただけで無事通過しほっとしたものの、両替はさすがに勝手が分からず友人に先に行ってもらって様子を見てからにした。こちらの方も心配したほどではなく、無事両替をすませるとホテルへと向かうバスに乗った。
だんだん夕闇が近づいてくる時間、帰宅ラッシュの高速道路をロンドン市内へと向かってバスは走った。郊外の住宅地は一面の緑の中にたくさんの木造住宅が並び、それらが見事なバランスを保っていた。日本の、家ばかりしかないような住宅地とは大違いである。ロンドン市内にはいるととたんに建物がほとんど石造りのものとなる。そのころにはもうすっかり陽も落ち、「夜のロンドン」という雰囲気になった。石造りで統一された町並に感動していると、やがてバスは私たちが泊まるホテルに着いた。
チェックインをすませ、次の日の市内観光の日程や出発日の予定などの打ち合わせをした後、飛行機の待ち時間と飛行時間の長さですっかり疲れ切ってしまった私たちは、(ポーターさんが運んでくれるのにもかかわらず)自分達でさっさと荷物を持って部屋へと直行し、少し落ち着くともう眠くなってきた。ロンドン時間8:00pm。無理もない、日本ではもう朝の5時である。つまり私たちは(飛行機の中で少し寝たとはいえ)ほとんど徹夜の状態なのだ。これが時差ボケの始まりかな、などと思いながらシャワーを浴び、疲れたときにはさっさと寝てしまうのが一番とばかりに、普段の夜更かし生活では考えられないような夜10時という時間にはすでに眠りに就いていた。
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