<3月18日(月) 晴れ>
午前中は大英博物館にチャレンジした。
とにかく広い。ガイドブックにも「全部きちんと見るなら1週間は必要」とあるくらいであるから相当なものである。
古代エジプト、アッシリア、ギリシャの部屋を見ただけで案の定疲れてきた。しかも館内には社会科見学とおぼしき小学生の団体が大挙して走り回っている。先生の話を聞かずにふざけあっている子がいれば、一方で床に寝転がって展示品を一生懸命スケッチしている子もいる。ミイラの部屋では「うわーミイラだ!」「もっと有名な人のないの?」バタバタバタ……(走り回る音)。とにかく大騒ぎであった。
印象に残ったものはやはり「ロゼッタ・ストーン」だろう。古代エジプト文字、楔形文字、ギリシャ文字、それらが一緒に書かれており、古代文字解読のきっかけとなった石とくれば、一度は本物を見てみたかった。思わず売店で絵はがきまで買ってしまったほどである。
午後はNational Galleryへ。ここも広い。入場したのが、後で述べる理由により予定の時間よりかなり遅くなったため、厳選して見よう、と意見が一致した。友人のリクエストはレオナルド・ダ・ヴィンチ。私のお目当ては印象派以降の絵画。目当てのものだけじっくり見て後は素通り、というような感じだったが、ゴッホの「ひまわり」やスーラ、アンリ・ルソーの絵には感動した。
今回の旅行、夜は疲れてホテルでぐったり、なんて日々がほとんどであったが、この日だけは違った。
前々から「ロンドンに行ったら1日はジャズのライブをどこでもいいから見に行こう」と言っていたのだが、日本でいう「ぴあ」のような雑誌を買ってチェックしたら、Wallace Roneyという有名なトランペッターが自己のグループでライブをやる、と書いてあった。しかも日にちは3月17、18の2日のみ。行ってみよう!ということになったのだが、ライブハウスの場所が分からない(ガイドブックにも載っていなかった)。だいたいこの場所だろう、と見当をつけ、念のため今回使った旅行会社のツアーデスクに問い合わせると「ちょっと治安が悪い場所なのでできれば行かない方がよい」との返事。でも£10という料金はお得だし、とりあえず下見をしてからにしよう、ということで午後はまずライブハウスの下見。お店の人のご好意で中も見せてもらっていたたら、ちょうどそこに黒人のお兄ちゃんが現れ、「君達もWallace Roneyのライブを見に来るのかい?」と私たちに話しかけてきた。結構気さくな感じのこのお兄ちゃんの「絶対見においで!」という一言と、お店の雰囲気もそんなに悪くなかったのとで、私たちは見に行くことに決めた。
そして夜。8時開演の予定がなかなか始まらない。少し腹ごしらえをしてから行ったため、頼んだサンドイッチとサラダの量が多すぎてなかなか食事が進まない。そうこうしているうちに午後9時。
やっとライブが始まった。スタンダードというよりは彼のオリジナル曲が多く、いわゆる「4ビートジャズ」を聞き慣れている私たちには分かりにくかった。それでも演奏のテクニックはすばらしく、さすがプロだなあ、と感心した夜でもあった。
Wallace Roney Quintet
(in THE RHYTHMIC)
終わったのはもう0時に近く、私たちはライブハウスの向かいにあったタクシー・オフィスでタクシーを頼んで帰った。友人はタクシーの運転手さんとのおしゃべりに花を咲かせ、私はそれを聞いているだけであった。「治安が悪い」と脅かされたもののそれほどではなく、むしろ脅かされることによってかえって用心するようになって良かったと思う。少々割高になるがタクシーを頼んだのもひとえにそのせいである。おかげで私たちはなんの被害もなく無事ホテルに辿りつくことができた。ロンドンで初めて(というより唯一)有意義な(あるいはまともな)ことをした夜であった。
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